コンタクト・インプロビゼーション

濱口竜介監督『不気味なものの肌に触れる』に砂連尾理のコンタクト・インプロビゼーションのワークショップの場面が出てくる。2人の人物がお互いの肌に触れないギリギリのところで、互いの微細な動作を把握し反応し合うとあうもの。触れずに感じるものに意識を集中することで、普段はあまり意識されない感情によって自分の動作が起こり、相手との新たなコミュニケーションが成立する。これを基礎として第三者の視点から見せ方を作っていくと、コンテンポラリーダンスなどの身体表現が出来上がる。肌に触れない、というやり方の正反対にあるのが、コンタクト・ゴンゾーのパフォーマンスだ。ゴンゾーは複数名のパフォーマーの肌と肌を執拗にこすり合わせる。触感であるとともに、動力のぶつかり合いともなる。こうして出来上がるパフォーマンスは、一見するとケンカや格闘技のようなものに見えるが、勝ち負けの試合ではなく力のぶつかり合いからコミュニケーション=平衛の状態を導き出すことを主眼においたものだ。ダンス創作に於ける二つの方法である。
おそらく、音楽にも同じ事が起こる。触れずに感じる、つまり耳で相手を聞きコミュニケーションをとることと、力と力の馴染み合うポイントでダイナミズムを生み出し、コミュニケーションをとること。フリー・インプロビゼーションの音楽だけでなく、様々な音楽表現に含まれる本質だろう。